診療報酬とは?診療報酬の役割と医療費の現状

医療サービスを提供する医療機関はもちろんのこと、医療サービスを受ける患者さんの立場としても「診療報酬」について知っておくことは非常に重要なことです。実際にはどのような役割をしているのか、患者さんが病院で支払う医療費との関係を含め、診療報酬の仕組みや内容について正しく理解できるよう解説するとともに、定期的に実施されている改定のポイントや問題点についても検証していきます。
診療報酬とは
私たちが病院やクリニックで診察や治療をしたときに支払う治療費や薬代などの「医療費」についてはなんとなく理解はできているものの、「診療報酬」についてきちんと理解できている人は少ないのではないでしょうか。
診療報酬とは、一言で言ってしまえば、医療機関が患者さんに施した医療行為等の対価として、保険制度から支払われる料金を指しています。
患者さんが受けた医療行為と医薬品代を合計したものがいわゆる医療費ですが、患者さんはそのうち3割(年齢や所得に応じてはそれ以下)を負担しています。残りの7割は患者さんが加入している国民健康保険や健康保険組合などの保険者が負担しており、この全額にあたるものが「診療報酬」なのです。
診療報酬の仕組み
日本の保険診療では、実施した診療内容に基づいて診療報酬明細書(レセプト)を作成し、医療保険の請求をしています。この際、明細書の項目は厚生労働省が告示する診療報酬点数表に基づいて点数化されており、患者さんと保険者は、1点につき10円で換算された金額をそれぞれ負担することになっています。
つまり診療報酬とは公定価格であり、医療費や診療内容に大きく影響を及ぼす医療保険制度の根幹となる仕組みといえます。
診療報酬の内容
診療報酬はすべて医師の収入になると思われがちですが、実はそうではありません。
医師や看護師などの人件費、医薬品費、医療機器、設備関係費などが診療報酬の中から賄われています。診療報酬は病院の運営を維持していくために使われており、私たちが受ける治療や薬を購入するための大切な原資となっているのです。
また、サービスの価格が提供者によって任意に決められるのに対し、医療行為や医薬品は国の制度により細かく値段が設定されており、このような公的に決定された医療費も診療報酬と呼ばれています。
「診療報酬」とは、医療行為や医薬品などの対価と、医療に関する価格表や制度を指す場合があるようです。
診療報酬の役割
診療報酬は「医療機関の収入」というのが直接的な主な役割となっており、医薬品費や医療機器費といった医療機関を運営していくために必要な費用として使われています。
通常は2年毎に改定され、消費税増税などの影響がある場合は臨時的に改定することで調整され、医療費高騰を防止する役割や、医療機関と患者さんの双方の負担を軽減したり平等にする役割も担っています。
その他、診療報酬を受け取るために設定された要件(看護職員の配置基準や看護師の比率、指針の作成など)によって医療の質に差ができることを防ぐ役割や、民間が運営している医療機関が圧倒的に多い中で、診療報酬という金銭的なインセンティブを付けて国の医療方針を現場に反映させるという政策誘導的な役割も果たしています。
医療機関
医療機関にとって診療報酬は、人件費、医薬品費、医療機器費、ランニングコストといった、まさに医療機関を運営していくための資金源となっています。
診療報酬の改定時には医療機関にとっても大きな影響を受けますが、働き方改革がテーマとなった2020年の改定時には、医師や看護師の負担の軽減が配慮された点数の加算があり、医療機関にとって運営しやすい状況になっているようです。
患者
診療報酬は定期的な改定の時期の社会的な状況によっては負担額が増える場合もありますが、基本的には患者さんにとっても経済的な負担が大きくならないよう配慮されています。医療機関との負担のバランスが崩れないよう、安心して医療機関に通うことができるように考えられた制度と言えるかもしれません。
診療報酬の決め方
医療のサービスや商品については提供者によって価格が決定されていますが、医療行為や医薬品代は国によって細かく価格が定められています。これが診療報酬と呼ばれているもので、厚生労働省から具体的な項目毎に点数で示されており、1点10円で換算されます。
改定の流れ
定期的な診療報酬の改定は、大まかには次のような流れで実施されています。
まず厚生労働大臣は政府が決定した改定率をもとに中央社会保険医療協議会(中医協)に意見を求めます。中医協は個々の医療サービスについて審議・調査を行い、その結果を厚生労働大臣に報告します。その後、疑義解釈を行い、医療機関等からの疑問点の受付・回答を経て診療報酬の改定が行われています。
改定の準備から実際に改定されるまでは、約1年かかるようです。
関係者と役割
診療報酬の改定については、主に次の三者によって行われます。
- 中央社会保険医療協議会(中医協)
中医協では、改定の約1年前から調査がスタートします。詳細については国の予算や基本方針の決定後に議論されるため、それまでに事前調査や下準備が行われます。12月に内閣で決定された診療報酬の改定率と社会保障審議会(社保審)から出る基本方針を受けて詳細の議論を行うことになります。
中医協では「医療側」「公益側」「支払側」という3つの異なる主張の立場の人が議論し、改定の必要性を審議した後に詳細を厚生労働大臣に報告します。これが答申といわれるものです。
- 内閣
診療報酬に関することは、通常6月-7月に決定される経済財政運営と改革の基本方針と、12月の国の予算決定の2つです。基本方針に従って診療報酬の方向性も定められ、12月の国の来年度予算決定と同時に診療報酬全体の改定率が決まります。
- 社会保障審議会(社保審)
内閣で決定される経済財政運営と改革の基本方針を受けて、社保審では診療報酬改定の基本方針を議論します。12月には基本方針が決定します。
診療報酬の改定
医療の価格表としての役割もある診療報酬は、時代の流れとともに社会や経済的な状況が反映されるように基本的に2年毎に見直しがされています。
特に2018年は診療報酬と同時に介護報酬も改定が行われる年に当たり、団塊世代が近い将来75歳以上の後期高齢者となることを見据えて、医療と介護の両方を意識した社会保障制度の実現に向けて改定が行われました。また働き方改革の推進の年でもあり、業務の効率化が盛り込まれた内容にもなっています。
さらに2019年には10月に消費税が10パーセントに増税されたことにより、臨時で診療報酬も改定されました。実際には、患者さんの診療にかかる医療費や診療報酬の金額は消費税非課税なので増税による増加はありません。しかしながら、医療サービスを提供するための物品には消費税がかかってくるため、診療報酬を調節しなければ医療機関の利益が減ることになってしまいます。
2019年での改定では、このような増税によって起こる医療機関の負担を解消するというのが目的であり、あくまでも増税分の補填であるため診療行為自体の評価に変更はなく、外来の診療料や入院基本料といった基本診療料に点数を上乗せすることで見直しがされています。
診療報酬の問題点
世の中の動きに伴って改定されている診療報酬ですが、いつくかの問題点も抱えているようです。
- 報酬配分
以前より開業医と勤務医の収入格差や診療科ごとの報酬の格差が存在するなど、診療報酬配分に関してのさまざまな問題が発生していました。
この数年で注目され始めたオンライン診療においても、現在のコロナ禍においては活用が期待されているにもかかわらず、慎重な検証がいまだに続けられており、現状では対面診療よりも診療報酬の点数が低いため病院側にかかる負担が大きいというのが現実のようです。
- 薬価差益
かつて院内処方が主流だった時代には薬の納入価格が安かったため、医療機関で多く処方するほど利益を上げられることが薬価差益を生む原因として社会問題にもなっていました。
その後医薬分業導入で調剤報酬と病院経営とは切り離され、厚生省により大幅な薬価引き下げが行われたため差益は縮小されました。しかしながら、販売競争の影響もあり、実際に医療機関が医薬品を仕入れる値段は薬価よりも安く、差益分は医療機関の収入になっているのが現状です。
これに対して薬価と実勢価格の差(乖離率)をめぐって診療側と支払側とに大きな隔たりがありましたが、2020年12月に行われた厚労・財務両大臣と内閣官房長官による折衝では、市場価格との乖離率が5バーセント以上ある品目を引き下げることで決着しているようです。
- 外注による検査差益
通常、医療機関等で患者さんから採取された検査は、市場実勢価格が反映されて検査ごとに診療報酬が定められています。多くの場合、検査は医療機関内で実施されていますが、他の機関に外注した場合に、検査受託機関が検査料を割り引いたとしたら検査差益(もうけ)が発生してしまうことも問題視されています。
- 不正請求
実際に診療を行っていない診療を請求する架空請求、診療行為の回数を実際より多く請求する付増請求、自費診療を行なって費用を受領しているにもかかわらず保険でも診療報酬を請求する二重請求といった不正が後を絶ちません。
こういった不正は適時調査や監査の際に発覚し、結果として診療報酬を返還することになります。また不正の内容に応じて、指導や取消処分を受けることにもなってしまいます。取消処分を受けた場合は、原則5年間は保険医療機関の再指定や保険医等の再登録を受けることができなくなるようです。
- 医療機関の控除対象外消費税
病院での医療に関する費用のうち、公的医療保険が適用されれば消費税はかかっていませんが、実は消費税分が上乗せされています。これまでも消費税の税率が上がるたびに、診療報酬と薬科は値上げされてきました。
このような処置を取らなければならない理由は、医療機関が消費税を受け取れないところにあります。医療機関は患者さんに提供した保険診療に対して消費税を受け取ることはできませんが、医薬品や医療機器などを購入するときには消費税を支払っているのです。
仮に消費税増税のタイミングで診療報酬が引き上げられなければ、控除対象外消費税は医療機関にとっては単なるコストとなり、医療機関の経済的な負担が増えるのみになってしまいます。これが「医療機関の控除対象外消費税」といわれる問題なのです。