クリニック開業時保健所立ち入り検査には何に備えれればよい?

クリニック開業にあたり、保健所の立入検査を受けることは避けて通れないプロセスです。これは、『医療法第25条第1項の実施要項』に基づいて実施され、設備、医薬品・文書の管理体制、危機管理など、適正な医療を行う場として適正かどうかを判定する検査です。
保健所からの指摘・指導を最小限に留め、クリニックがスムーズに開業できるよう、立入検査とはどのようなものなのか、事前に把握して臨むことがカギとなるようです。
保健所立入検査で出される指摘事項とは?
保健所が実施する立入検査の目的とは、病院及びクリニックが、適正な医療を行う場としてふさわしいものとすることです。そのために、人員や構造設備が規定を満たしているか、管理面では適正かの検査が必要になってくるのです。
立入検査の結果は、『指摘』『文書指導』『口頭指導』『指摘・指導事項なし』の4つに判定され、指摘・指導があった場合は、医療法の認識不足、または業務管理不十分として、改善を要求されることになります。
実際には、立入検査を受けたほとんどのクリニックにおいて、何らかの指摘・指導を受けているのが現実のようです。
では、立入検査ではどのような指摘・指導事項が多く見られるのでしょうか。
平成28年度に実施された立入検査の報告書をもとに、詳しく見ていくことにしましょう。
診療放射線関係
『診療放射線関係』の項目では、立入検査実施病院の10.4%に指摘、29.2%に文書指導がされており、指摘の中では一番多い項目です。
主な指摘事項は、次のようなものです。
また、文書指導では次のような項目も挙げられています。
立入検査は、問題や事故が発生することを事前に防止する手段として捉え、指摘・指導を受けた項目は、改善するだけでなく、正しい知識を習得し、適切なクリニックの運用に生かすことが大切です。
病院管理・施設使用・院内掲示
『病院管理・施設使用・院内掲示』では、7.5%の指摘、21.7%の文書指導がされています。指摘として挙げられている項目には次のようなものがあります。
文書指導では
といった項目が挙げられています。
適切な手続き及び病床稼働状況の確保は病院運営上の重要な事項であるため、医療法上の届出と違った用途での部屋の利用、未稼働の許可を受けている病床があるなどの状況は避けるよう、適切に手続きを行う必要があります。
医療従事者数
『医療従事者数』は指摘事項の中では3番目に多く、4.6%を占めています。具体的には、「医師の員数不足」(2.5%)、「薬剤師の員数不足」(2.1%)、「看護師員数不足」(1.3%)となっています。
員数不足は質の良い医療行為を行うこと自体が難しくなります。基本的な項目がクリニックの開業の妨げとならないよう、注意が必要です。
個人情報
『個人情報』の項目では、指摘を受けた病院・クリニックは1.3%とそれほど多くありませんが、文書指導は最も多く、全体の50.0%を占めています。中でも上位を占めていたのは次の2項目です。
個人情報については、主に「個人情報保護法」が根拠となっており、漏えい事故防止のために、職員の意識向上と管理体制の在り方について指導がされているようです。
職員の健康管理体制
『職員の健康管理体制』の項目については、指摘は設定されていない項目ながらも文書指導では46.7%と2番目に多くなっています。上位を占めるのは主に次の項目です。
「職員の健康管理体制」については、定期健診において、労働安全衛生規則上の法定検査項目の受診漏れが目立っているようです。法定検査項目の一覧を配布、検査項目表の掲載をするなど、周知徹底することで、改善を図っていく必要があるかもしれません。
医療安全管理体制
『医療安全管理体制』については、指摘事項は「研修」に関する事項の0.8%と少ないものの、文書指導では42.1%を占めています。主な文書指導項目は、
の順になっています。
医療安全管理体制の項目については、医療法改正等によって順次検査項目を追加されているため、新たな基準の下での指導件数が多くなっているようです。
保健所の立ち入り検査当日の流れは?
立入検査当日は、実際にはどのようなことが行われるのでしょうか。
実施の日程については予め管轄の保健所と調整し、決定します。当日は担当者がクリニックを巡回し、設備やチェック事項を見ていきます。その後、担当者から指摘事項についての説明を受け、終了となるようです。
検査項目は、「医療法第25条第1項の規定に基づく立入検査要綱」の第1表「施設表」、及び第2表「検査表」に記載されている事項が検査対象となっており、項目ごとに適合・不適合の判定がされていきます。不適合と判定された項目は、指摘または指導を受け、改善をすることになります。
では、実際の立入検査項目が記載されている第2表の「検査表」にはどのようなものがあるのでしょうか。
医療従事者
『医療従事者』の項目では、患者数に対応した医者、薬剤師、看護師等が適正な人数かどうかが検査されます。
医師の員数の標準計算方法に則り、正しく計算し、人員を満たしておくことが必要です。
管理体制
『管理体制』においては、医療法上の手続きが適正に行われているかがポイントで、医薬品関連から文書管理、職員の健康管理にまで及ぶまでの管理体制が検査の対象となります。
等の項目に関して判定されることになります。
帳票・記録
クリニック開設前の立入検査では、「院内掲示」が主なポイントとなってきます。定められた事項(管理者名及び医師の氏名、診療日時、各部屋の使用用途、個人情報の管理体制)が見やすい位置に記載されていることが必要です。
防火・防災体制
『防火・防災体制』とは、消防法に則り、防火管理者を定め、適切な消防計画が立てられているかどうかの検査です。
また、クリニック内に、スプリンクラーの設置や適当数の消火器を設置がされているかなど、防火・消火上必要な設備が整っていることも判定項目になっています。
放射線管理
放射線取扱施設を有するクリニックでは、『放射線管理』は最も重要な項目と言えるかもしれません。
検査項目には主に次のようなものが含まれています。
その他、放射線管理に関する多くの細かな項目が設定されています。放射線による最悪の事態を避けるためにも、開業前に特に入念に確認しておくべき項目です。
それぞれの検査で気をつけるべきポイントは
クリニック開業時には、今後の運営にあたり、法律および規則に従って、基本的な体制が整っていることが重要となります。保健所の立入検査当日の指摘・指導を最小限に抑えるためにも、ポイントを理解しておくことが大切です。
医療管理体制
クリニックを開業するにあたり、医療に関わる管理体制が整っていることは必須です。保健所の立入検査項目を事前に確認し、準備しておくことをお勧めします。気をつけるべき主な項目は次のとおりです。
医療法上の手続き
医薬品
医療機器・器具及び看護用具
その他、職員の健康管理として、健康管理体制が確立されていることも必要です。
医療安全管理体制
医療の安全管理のための体制を確保するためには、実施すべき多くのポイントがあります。指針の文書化、委員会の設置、研修の実施など、それぞれの項目に対応した必要項目を確認しておきましょう。
医療に係る安全管理のための指針の整備
安全管理に関する基本的考え方、安全管理委員会等の組織に関する基本的事項を明記し、文書化する必要があります。
医療に係る安全管理のための委員会の開催
安全管理委員会とは、当該クリニックにおける安全管理の体制の確保及び推進のために設けるもので、「安全管理委員会の管理及び運営に関する規程が定めること」、「重要な検討内容について、患者への対応状況を含め管理者へ報告すること」などの基準を満たす必要があります。
医療に係る安全管理のための職員研修の実施
医療に係る安全管理のための基本的考え方・方策について、従業者へ周知徹底し、意識の向上を図ることが定められています。
事故報告等の医療に係る安全の確保を目的とした改善のための方策
クリニックにおいて発生した事故について安全管理委員会への報告等を行うこと、規定に従い事例を収集・分析し、問題点を把握して、改善策の企画立案及びその実施状況を評価すること、などが求められます。
その他、専任の医療に係る安全管理者の配置、などといった安全管理体制に不備がないかの確認をしておくことが大事です。
放射線管理
放射線管理は、事故が起こった場合、甚大な被害を及ぼすことになるため、特に重要な項目です。保健所の立入検査においても、細かなチェックの項目が設定されているため、マニュアルの整備や研修訓練の実施など、定期的に確認することが要求されます。
管理区域での適切な措置
敷地の境界等における防護
射線装置・器具・機器等の使用室及び病室である旨を示す標識の設置
その他、「放射線障害の防止に必要な注意事項の掲示」「使用中の表示についての必要な注意事項の掲示」が適正であるかどかも抑えておくべきポイントです。
院内感染対策
クリニックにおいて、院内感染対策を講じることは、立入検査のためだけでなく、実際の運営において最も注意すべき項目のひとつであり、発生させてはならない項目として対策を徹底することが必要です。具体的に必要な対策とは、以下となります。
院内感染対策の指針の整備
院内感染対策の指針とは、院内感染対策に関する基本的考え方等の事項が盛り込まれた内容を文書化し、従業者へ周知徹底をすること。
院内感染対策のための委員会開催
当該クリニック等における院内感染対策の推進のために院内感染対策委員会を設け、管理及び運営に関する規程の定め等、基準を満たすこと。
その他、従業者に対しての院内感染対策のための研修を実施すること、院内感染対策推進を目的とした改善のための方策を講ずること、専任の院内感染対策を行う者を配置すること等の定めがあります。
防火・防災体制
消防法に基づいた防火管理者を定め、消防計画が作成されているか、防火・消火上必要な設備(消火器・屋内消火栓などの消火設備、自動火災報知機などの警報設備、及び避難はしご等の避難設備)が整備されていることがポイントとなります。
クリニックにおいての特殊となる診療の用に供する電気、光線、熱、蒸気またはガスに関する構造設備について、電気を使用する診療用器械器具の絶縁及びアースの安全な措置などの危害防止上必要な方法を講じていることも必要です。
まとめ
保健所の立入検査ではどのような指摘・指導がされているのか、現状を把握することにより、事前に対策を講じて滞りなくクリニックが開業へと進めるように、主な立入検査項目を見てきました。多少煩わしくても、立入検査の項目にすべて適合させることで、開業後には信頼される評判のよいクリニックに近づくことができるかも知れません。
開業前の段階で指摘・指導を多く受けたとしても、クリニックにとって乗り越えなければならない大切なプロセスだと前向きに捉え、ひとつひとつ確実に改善していくことが、クリニックがうまく軌道に乗るための近道だと言えそうです。