失敗事例や現状から学ぶ精神科を開業・経営する上で重要なポイント

クリニック経営をするに当たって必要なもの、それは経営状況の把握と診療科目の特徴を知る事です。精神科は他の診療科目に比べて、調達資金が少ない事で近年経営に乗り出す方が多くなっています。しかし開業のポイントを抑えないとうまく経営が出来ず閉業してしまった、そんな話も多くの方から聞くので注意が必要です。まずは経営状況や特徴、そして失敗事例を学びそうならない為にはどうすべきか考えてみましょう。
精神科病院の経営状況
データによると「一見精神科の経営は安定していると思われているが、蓋を開けるとそれは誤りだった。」と言うことを示しています。実際に2003年から利益は緩やかに減少し、且つ人件費は上昇しているので実際の利益に繋がりにくい状況です。
また年々医業費用は増加していて、医業費用を稼ぐために自転車操業をしているクリニックも少なくありません。それに伴い、赤字を出すクリニックが3割近くあり、今後も増えると言われています。精神科は他の診療科目によりも入院が少なく、且つ入院をするのであれば専用の設備が必要です。
しかしその設備を導入する為には一定の資金が必要になり、初期費用が多額になってしまいます。これらの実態を踏まえてどのような経営をすべきか考えなければなりません。
精神科の特徴
利益を得ている精神科の特徴をいくつかピックアップしたところ、共通する特徴が見られました。メンタル系のクリニックは人によって「通っているところを見られたくない」と思われています。その為、戸建てよりもテナントビルの方が利益を確保しやすいです。テナントといっても1階では戸建て型と変わらないので、2~3階が良いでしょう。
但しここで注意して欲しいのが3階以上のテナント契約は控えるべきです。雑居ビルには数多くのテナントが入っていますが初めて行く場合、高層階へ行きづらいと思いませんか?特に古びたビルの高層階は圧迫感を感じやすく苦手意識を持つ方が多いです。また人の認識度と階数が上がっていく事は反比例するので、単純に精神科が入っていると気付かれにくいデメリットもあります。
立地場所は駅から徒歩5~10分程度の場所がベストです。院内は落ち着いた雰囲気且つ、患者がリラックスして話せる様な環境づくりが必要です。デリケートな問題を抱えているケースもあるので、プライバシー配慮を忘れてはいけません。近年ではWEB集客が必須ですが、その際にも「この人に相談したい。」と思わせる様な工夫が必要です。あくまでも患者目線、そしてSEO対策をしっかりしている事が条件と言えるでしょう。他にも安定した利益を確保しているクリニックは近隣の調剤薬局と連携していたり、電話対応に力を入れていたりするなど小さな工夫を積み重ねています。
肝心の資金調達ですが金融機関からの借入れ、あるいは融資を集うのが一般的です。2000万円程度の資金が必要で、自己資金は500万円ほどで問題ありません。借入れは銀行がポピュラーですが親族や家族だと金利や返済期間を柔軟に対応出来るのがメリットです。仮に資金調達をしなくてもまかなえる場合でも、社会的信頼を得る為にあえて融資を受ける方法もあります。
精神科の開業のポイント
しっかりとクリニック経営のポイントを知ってから開業するようにしましょう。開業するにあたって必要なのは強み・弱みを知り、それをどう経営に活かすか、と言う事です。SWOT分析といってビジネス戦略にも使われている方法が参考になります。SWOT分析は内部・外部環境の強み・弱みに抜き出して、お互いを補う為にどうすれば良いのか?を浮き彫りにする方法です。
例えば資金の問題で小規模精神科しか開業出来ない場合、地域密着に徹底する、在宅医療を展開するなど、小規模クリニックでも出来ることを考える必要が出てきます。専門性の徹底は特定の患者から支持を得やすい反面、新規患者が寄り付きにくいと言う弱みにも繋がるので、その対策も考えていくと良いでしょう。
「とにかく物件さえ押さえたら問題は無い。」といった楽観的な目線は非常に危険です。やりすぎぐらいに分析・戦略を立てていく事がクリニック経営成功のポイントとなります。まず開業目的、事業コンセプトを選定したら、マーケティング、エリアの絞込みを行い抽象的なイメージを具現化すると良いです。その後物件を探し、診療圏を分析しながら当初構築した事業シミュレーションで問題が無いかを確認します。問題が無ければ物件契約と言う流れにすれば、大きな失敗を回避出来るでしょう。
失敗事例
成功ポイントを知る事も重要ですが、失敗事例をあらかじめ知っているとリスク回避に繋がります。実際にクリニック経営をした方によると「立地条件」で失敗したと感じる方が多いようです。例えば事前に人口リサーチを怠って賃料ばかり気にした結果、人口減少に伴い収入が激減、新規開拓が難しく集客をしても響かない場合もあります。
そしてもう1つ失敗に繋がりやすいのが自己資金についてです。別の項目でも説明しましたが、精神科は他の診療科目に比べても、自己資金や調達資金が少なくても開業に乗り出しやすく、近年多くの方が経営しています。しかし実際に開業してから利益を得られるのが早くても2~6ヶ月になるので、カツカツの状態だと自転車操業をせざるを得なくなり、余裕がなくなってしまいます。ある程度の自己資金を持った上で、物件や立地場所を含むマーケティング知識が必要になります。
マーケティングに関してはどうしても自分でうまくいかない場合、コンサルタントへ依頼するのも賢い方法です。「失敗したくない」と思うのは誰しもが同じですが、何もしないと何も起きません。自信を持てるマーケティングを重ね、問題が無いと思った時点でクリニック経営に乗り出すと良いでしょう。知識は武器になるので、焦らず着々と歩んでいくのが経営成功のポイントです。
今後の精神科の経営について
そもそも日本は海外に比べると精神保健福祉の歴史が浅く、患者が社会復帰をする為のステップや設備が整っていない事が指摘されています。海外では18世紀後半から精神保健福祉が発展したにも関わらず、日本では20世紀前半と2世紀もの差がある為、知識不足な点も否めません。
特に患者の家族が受け入れを拒否する、あるいは退院した後もレッテルにより社会復帰がしにくいのが問題点です。日本は精神病床数が多く、それに合わせて入院期間も長い傾向にあります。アメリカは平均1週間、イタリア・ドイツは2~3週間にも関わらず日本では平均10ヶ月、精神病で訴える患者増加の背景に間に合っていないのです。この状況が長引く事で精神科1件辺りの利益は下がり続け、大幅な閉鎖に追い込まれる可能性もあります。
そうならない為にまず目先の利益だけでは無く「患者が通いやすい環境」「家族へ理解を得られる様な説明」が必要です。医療機関同士の連携だけでは無く、患者を第一に考えた医療マーケティングを目指し、少しずつ改善していくと良いでしょう。
まとめ
開業資金も少なくテナントでの経営が出来る精神科は、近年多くの起業家から注目を集めています。しかし蓋を開けると精神保険福祉が整っていない、あるいは人件費・医業費用の増加により利益を得られていないクリニックがあるのも事実です。
そうならない為にはまず開業目的を明確にした上で、強み・弱みを活かしたマーケティングが必要となります。「医療に経営を持ってくるなんて!」といった意見も少なからずありますが、患者を第一にした経営・マーケティングはクリニック経営だけでは無く国内の医療発展にも繋がってきます。