医療法人化のメリットとデメリット

医療機関を開業し、スタッフを雇いながら患者さんの診察を行います。しかし同じ規模の医療機関は医療法人化するところもありますが、一体何が違うのでしょうか?開業してある程度軌道に乗ると法人化の話が付きまといますが、そのメリット・デメリットに迫っています。給与所得控除が受けられる、または新規事業展開が出来るのは強みですが、経営が絡むので監督官庁からのチェックが厳しくなる弱みも存在します。これらの注意点を踏まえて役立つ情報を公開しています。

医療法人とは?

そもそも医療法人とは?医療機関は全て法人ではないの?と疑問に思う方もいるでしょう。厳密に言えば医療機関は個人事業として認められていて、開業医となるケースはほとんど個人事業主です。今は開業したクリニックだけで良いかも知れませんが、新規事業だったり別院を立ち上げたりする場合は法人化が必要です。

そもそも医療法人というのは医療法に基づき、各自治体の認可を受けて設立されたクリニックである証明になります。個人事業の場合は利益がそのまま給与になっていましたが、法人化すると働いているドクターは事業主では無くクリニックから給与をもらう事になります。個人と税金の算出方法だったり、届出だったり違う部分も多々あります。自治体に認可されるので患者数が増えやすい事から「法人化すると今よりも利益が上がるらしい」と生半可な気持ちで法人化して、後で後悔するというパターンもあるので注意して下さい。

簡単に言えばクリニックを法人化する事で、所有者が事業主では無く医療法人になるという点です。その為、多くの違いが生じてメリット・デメリットに繋がります。法人化するべきか迷っている場合は、所有者が法人になる点と次世代にクリニックを残すべきかをメインに考えると良いです。

医療法人化するメリット

医療法人する事で得られるメリットは様々です。まず給与ですが個人事業の場合は事業主から医師へ支払われていましたが、法人から支払われるので最大230万円の給与所得控除が受けられます。役員を家族にすると役員報酬が入るのも魅力です。個人事業の際は所得税や住民税が課税されていましたが、これらが全て法人課税に切替わる事で税率が下がります。

個人事業は給与形態を含む働き方などが自由に設定出来る反面、すべて事業者に委ねられていました。その為、社員登用制度であったり退職金の有無だったり決まったルールがありません。法人化すると役職についている場合は、退職金の支払いが出来る様になります。通常の給与よりも税金面で優遇される為、クリニック側としても支払った方がプラスになります。

仮にお子さんにクリニックを継がせる場合、個人事業の場合は相続税が多く発生します。法人化すると理事長の変更を行うだけでクリニックを承継出来ます。家族経営のクリニックが多いのは節税目的でもあります。

税金関連のメリットが多い中、新規事業を展開しやすいのも法人化の強みです。介護事業や分院が出来るので、更に利益を上げるのも夢ではありません。当然ですが社会的な信用を得られるので、資金調達がしやすくなるのも大きなメリットです。

法人化すると患者数が増えやすい、または自治体のクリニックとして紹介されるので信頼されやすいのも大きな強みです。しかし、いくら自治体に認可されているクリニックだからといって質が良くないと患者は離れていきます。法人化にあぐらをかかず、常に安心出来るサービスを提供し続ける必要があります。

医療法人化するデメリット

法人化すると特に税金の面でメリットが多くあります。しかし、医療法人化するからこそのデメリットもいくつか存在します。まず法人化というのは社会的に認可された機関である証明なので、厳しい目で評価される様になります。例えば法人化して新規事業を立ち上げる時、監督官庁からのチェックが入ります。この時にあらかじめ事業計画書を用意しておくのですが、そこに記載されていない内容は自由に事業展開する事は出来ません。

事業報告書は毎年提出の必要があり、その他にも資産登記、理事会の議事録などの多くの書類作成の義務が生じます。節税に有効であると説明しましたが法人化すれば自動的に節税出来る訳ではありませんし、従業員の数に限らず社会保険・厚生年金の加入義務が生じるので、ケースによっては利益を確保出来なくなる場合もゼロではありません。

もちろん一度認可が下りて法人化すると簡単に解体は不可です。法人申請の際に事業の永続性を求められているので、個人的な理由での解散は不可です。仮に理事長が引退する場合は、新理事長を立てたり買収や合併を勧められたりするのも珍しくありません。申請が認められたとしても都道府県の認可が必要になるので多大なる時間と労力が発生します。

クリニック開業の際に多くの出資をしても解散する時には保証や分配はありません。基金拠出型医療法人であれば持ち出した金額は戻ってきますが、それ以上の分配は無いのです。出資や投資を目的にしているのであれば、法人化はデメリットが多いので注意しましょう。

医療法人化の認可基準と注意点

認可基準とそれに通じる注意点を知っていれば、事前に対策がしやすいです。まず医療法人が申請出来るのは医師・歯科医師のみです。理事3名、監事1名以上の人員が必要です。当然18歳以上で、理事と監事の兼任は認められていません。

法人名は今存在している医療法人とかぶっていたり、紛らわしかったりするものは不可で、誇大印象を与える名称も申請不可です。その為、法人名はクリニック名の一部をとったシンプルな名称がほとんどです。

認可基準は人員基準ばかりではありません。出資財産の確定、及び運転資金・医療機関不動産の永続的な確保や債務引継ぎが必要になります。個人事業主がやっているクリニックが法人化する場合、これまで使っていた医療器具は資産となります。運転資金に関しては2ヶ月分の支出予算が必要です。内訳は預金、医業未収金を比較し換金性が高いもので算出されます。

質の高い安全な医療を提供する為に、クリニックの立地している土地は原則法人所有でなければいけません。ケースによっては長期的な賃貸借契約でも可能です。債務の引継ぎはクリニック開業の際に金融機関から借り入れた債務や医療機器のリースについては法人に承継となります。

但し運転資金や消耗品に関しては、負債として承継できないので注意して下さい。大きな注意点は以下ですが、あえて開業時の個人医療財産を売買するという方法もあります。個人医療財産は売買すると個人にその金額入ってきますが、拠出と無償になるので料金はありません。

まとめ

新規事業を立ち上げたい、あるいは地域に根付く医療機関として認可されたいのであれば医療法人化がおすすめです。個人事業では不可であった退職金の発生や、保険の損金計上が出来ます。相続税対策も出来るので、節税という観点で考えるとメリットが大きいです。

但しどのクリニックでも認可が下りる訳ではなく、監督官庁の厳しいチェックが入ります。社会保険や厚生年金の加入義務や毎年事業計画書の提出などデメリットもあります。認可基準は人員基準と財産基準があり、それぞれ申請資格がありますので、よく確認しましょう。