病院やクリニックの内装の費用相場とデザインポイント

病院またはクリニックを訪れるとき、病気の不安や緊張感から、足取りも重くなりがちです。そんな心理面を含めての患者さんを受け入れる場所として、また医師・スタッフが診察や治療を行う場所として、どのような内装が適しているのでしょうか。患者さんの不安感や緊張感を取り除き、医師やスタッフにとって最適な動線づくりのためのデザインと、その費用相場について検証していきます。
病院・クリニックの内装工事の費用相場は?
まず病院・クリニックの開業に向けて内装工事をする場合、費用はどのくらいかかるのか、相場を確認しておきましょう。
材料や設備、部屋の数により変動しますが、坪単価の相場は次のようになっています。
内装工事費用の概算は、次の式で求めることができます。
クリニックの広さ(坪)× 坪単価 × 115%(設計監理料を15%とした場合)
同じ種類の部屋構成の場合、全体面積が広くなると単価は安くなり、狭くなると高くなる傾向があるようです。
また、診療器具や机などの家具、看板製作設置費、既存の内装の撤去処分費用は別途かかりますので注意が必要です。
病院やクリニックではどんなデザインコンセプトが良い?
病院を訪れたとき、その雰囲気で緊張感と不安感が煽られてしまうという経験は、誰しも味わったことがあると思います。現在、病院やクリニックのデザインには、病院から連想されるマイナスイメージを取り除くような空間づくりを心掛けることが、求められるのかもしれません。
内装がどのように心理面に作用しているのかを理解し、デザインを決定するときに注意すべきポイントを確認しておきましょう。
清潔感のある空間づくり
絶対に外せないポイントは、衛生面と見た目の両方を兼ね備えた『清潔感』と言えるかもしれません。
そもそも病院を訪れる人は、健康な時よりも免疫力が落ちているなど、病原菌やウイルスに感染するリスクが高くなっています。多くの疾患さんが密集した空間や、掃除が行き届いていない空間は、患者さんにとって敏感に反応してしまうポイントです。
『清潔感』には、清掃が行き届き、汚れやホコリが取り除かれているという衛生面と、内装やインテリアによって感じる視覚的な部分の2つの側面があります。
凝ったデザインでは掃除の手間がかかる上に、ホコリが溜まりやすい空間を作ってしまい、衛生面においてはマイナスです。これを避けるためには、掃除に手間をかけないというコンセプトでデザインを考えることが必要となってきます。
さらに内装には、ホコリを集めにくい素材や抗菌素材のものを選び、目に見えない病原菌やウイルスが拡散しないよう、しっかりとした換気設備を整えておくことも大切です。
すっきりとしたレイアウトと、白を基調とした壁の色などで、視覚的にも清潔感を出す工夫をするとよいかもしれません。
安心感を与える内装
病院を訪れる人たちは、何らかの身体的な苦痛や精神的な不安を抱えています。そのため、緊張感を与えないような落ち着ける空間にすることが大事です。
とはいえ、暗くならないように華やかさを強調するのは、かえって緊張感を増すことになり、逆効果です。目指すのは、シンプルでほっとさせるような安心感を与えることで、温かさを感じる木目調のものや、暖色系の照明も効果的といえます。
待合室や受付は、圧迫感がなく落ち着けるくらいの広々とした空間にし、逆に診察室や処置室は、他の患者さんが気にならないように、個室にしておくことも大切です。
無駄のない動線
いくら清潔感や安心感を与える内装だとしても、医師やスタッフと患者さんが何度も病院内を行き来するような無駄な動きをつくってしまっては、時間との闘いである病院にとっては致命的と言えるかもしれません。
事前に患者さんと医師・スタッフの一連の流れを確認し、動線を考えたうえで空間づくりをすることがポイントとなってきます。通路は、人だけでなく車椅子などがすれ違えるような、十分な広さを確保しておく必要があります。場合によっては、患者さんと医療関係者が使用する経路は、別々にしておくというのもよい方法かもしれません。
身体が不自由だという立場に立って、移動しやすい動線づくりを心がけることが大切です。
配慮のあるレイアウト
待合室で待っている間に、他の患者さんが診察室に入るなどといった動きは、結構気になるものです。人によってはプライバシーの観点や、精神的な不安から、なるべく他の患者さんが目に入ることは避けたいと思う方もいるようです。
トイレが待合室の近くにある病院やクリニックも多いようですが、目に入るところにあることを快く思わない方も中にはいるようです。特にトイレを尿検査にも使用する場合は、患者さんの視界に入らない場所に設置するなどの配慮があるとよいかもしれません。
診療項目によって変わってくる内装
病院やクリニックには、内科、外科など多岐にわたる診療科があり、その治療内容は大きく異なっています。それぞれの診療内容に適した内装にするには、どのような点に注意すべきなのでしょうか。
内科
『内科』は、日本では他の診療科よりもはるかに開業件数が多いと言われています。そのため患者数も多く、循環器、消化器、呼吸器、神経など、専門的に分かれて開業されていることが特徴です。
そのような特徴を持つ内科の内装では、次のポイントを押さえておくことが大事です。
機能面を重視した間取り
多くの患者さんを効率よく診察し治療を進めるために、診察室や処置室、検査室などの移動をスムーズにし、無駄な動きを最小限にするための間取りを考えることが必要です。
感染を防ぐための換気システム
他の診療科と異なり、内科は感染のリスクが高い空間といえます。特に待合室では、本来の治療目的の病気以外に、他の感染症を引き起こす可能性が高くなります。部屋ごとに気圧を変えて空気の流れを調節できるような、しっかりとした換気設備を整え、ウイルスや雑菌を含んだ空気が待合室などに流れ込まないようにすることが大切です。
落ち着ける空間づくり
内科系疾患は、命にかかわるようなものや、痛みを伴うものがあることから、患者さんの多くは不安な心理状態にあります。特に待合室では、少しでも緊張感を和らげるために、座り心地のよいソファーを設置する、清潔感のある明るい色の壁にする、圧迫感を与えないレイアウトにするなどの工夫が必要です。
外科
『外科』は手術を行うという重要な役目を担っています。また整形外科になると、リハビリ施設を備えていることが、他の診療科と大きく異なる部分です。
外科の内装のポイントとしては、車椅子や歩行器を利用できる十分な通路の広さの確保、患者さんの不安や痛みを緩和する空間づくりなど、病院としての基本的な条件は、内科と同様と考えてよさそうです。
整形外科では、診察と検査が必要な初診と、主にリハビリが目的の再診外来とでは、受付・待合室からのアクセスが異なるため、どのような目的の患者さんにも適合したレイアウトを考える必要があります。診察・検査室とリハビリ室を明確に分離するなどの対応で、患者さん同士のすれ違いをなるべく避けることが大切です。
小児科
子どもたちにとって、病院という場所は、注射をされる怖いところというイメージがあります。そのため『小児科』の内装で重要なことは、恐怖心や威圧感を与えないような、明るく楽しい場所にすることを心掛けることです。
また、小児科の内装デザインのポイントは以下です
歯科
『歯科』は他の診療科と比べて、比較的少ない部屋数ですみ、それほどの広さがなくても開業できるのが特徴です。
ただし、歯科独特の音が待合室に直接聞こえてくるようでは、恐怖心を煽ってしまいます。清潔感のある明るい内装であることはもちろんのこと、診察室を個室にするなど、待っている間に痛みを連想させない工夫が大事です。
診察室には、歯科独自の機器を設置するため、圧迫感を与えない程度のスペースを確保しておくことも必要です。
眼科
『眼科』は専門性が高く、検査機器が多く導入されるため、病院内でも患者さんの動きも多いのが特徴といえます。
高齢者や視覚障害の患者さんも多いことから、段差をつけないなどの配慮は必須です。病院内の各検査室やトイレへの案内も、誰にでも認識できるようなサインにするなど、眼科を訪れる患者さんの立場に立った内装の計画を立てることが大事です。
また視力検査あたりで患者さんが渋滞している光景は、眼科でよく見かけますが、このようなことが起こらないようなレイアウトと動線づくりをしておくことが大切です。
クリニックによっては、白内障などの日帰り手術に対応できるところも増えてきましたが、施設を併設する場合は、さらに複雑なデザインの構成を考える必要があります。感染症防止のために、手術室をクリーンルーム化したり、手術後のリカバリールームの設置なども必要になってきます。患者さんが安心して手術を受けられるような環境づくりを目指して計画を立てることが必要です。
耳鼻科(耳鼻咽喉科)
『耳鼻科』の患者さんは比較的子どもが多いことから、待合室はやさしい色合いにし、壁にイラストを入れたりして親しみやすい空間を心掛けるとよいかもしれません。部分的に、子ども用の高さのシートや椅子を設置しておくこともポイントです。
花粉が大量に発生する時期などは、待合室は特に混み合うため、広めのスペースを確保しておくことも必要です。
患者さんの診察の回転も速いため、患者さんとスタッフがスムーズに移動できるような動線にし、診察室や治療室はきちんとプライバシーが保たれるような空間にしておくことも大切です。
部屋ごとの役割
病院の内装は部屋ごとに重視すべき点が違ってきます。 ここではそれぞれの場所において、押さえておくべきポイントについて説明していきます。
受付のデザイン
患者さんにとっては受付での印象がその病院の印象となってしまうほど、大事な場所です。どの病院に行くかを決めるとき、比較サイトを見て、医師の評価と同じくらい重視するのが、掲載されてある受付のデザインだという人も多いようです。
具体的には、次のような点がポイントとなるようです。
一目見て、好印象を持たれるような受付をまず目指したいところです。
トイレ
病院のトイレは、衛生面はもちろんのこと、健常者のように自由に体を動かすことができない人が使用することを前提として、使いやすさを考える必要があります。
また尿検査を目的に使用する場合は、患者さんが迷うことなく、スムーズに検尿台まで運べるような動線を考える必要があります。
診療室
診療室では、多くの人は待合室とは違った緊張感を持ってしまいます。そのために、ある程度落ち着ける内装と、プライバシーが保護されるような空間作りが必要になってきます。
内科や外科ではベッドに横たわっての診察も多いため、十分な広さも必要です。
動線という観点からは、医師や看護師がスムーズに行き来できるように、複数の診療室の裏に専用の通路を設けることで、労力の削減に繋げることができそうです。
キッズルーム
キッズルームが併設されている病院は、お子様連れの患者さんにとって、病院選びの際の最優先条件となりそうです。
床に柔らかな素材を使用し、躓かないように平坦にするなどの工夫が必要です。また子どもたちが楽しめるような壁紙や床を選ぶとよいかもしれません。
さらに親御さんが安心できるように、受付や待合室から子どもの様子が見ることができるような配慮も必要です。
スタッフルーム
患者さんが目にする内装も大切ですが、病院で実際に働くスタッフにとって、スタッフルームは緊張感から解放される大切な空間となります。
日々の忙しさの中でも、休憩時間を確保することは、福利厚生の観点からも必要です。食事をしたり、横になってリラックスできるよう、ある程度の広さを確保し、開放感のある空間にすることが大切なポイントです。
内装費用を抑えるポイントは
これほど多くの病院・クリニックが既に存在している中で、新しく開設して軌道に乗せるためには、多くの患者さんに足を運んでもらわなければなりません。評判のよい病院になるためには、腕のよい医師も必要ですが、他の病院と差別化できるポイントをつくっておくことが大事です。
ただし、内装にこだわりすぎては余分な費用がかり、予算オーバーになってしまいます。シンプルにし過ぎても印象に残らず、患者さんにとって魅力的な病院になることはできません。
では、個性のある病院・クリニックを目指しつつも、費用を抑えるポイントとは何でしょうか。
相見積もりをとる
病院やクリニックに限ったことではありませんが、内装工事を行う際には必ず複数の業者に見積もりを依頼することです。相見積もりをとることで、価格の相場や工事の品質も把握することができ、業者間でも競争原理が働きさらに安くなる場合もあります。
ただし単に出てきた価格だけで業者を選ぶと、後でトラブルになることもあるので、注意が必要です。
信頼できる内装業者を選択するコツは、「過去の実績を見て、自分の希望するクリニックに合う業者と選ぶこと」、「きちんとアフターフォローをしてもらえること」のようです。
設計と工事施工を別々に依頼する
設計から施工まで一社に依頼すると、提示された金額が妥当なのかを判断しづらく、結果的に費用が余分にかかってしまうことになりかねません。
流れとして、まず医師などの病院・クリニックの開業者に希望の条件を聞き、設計事務所に設計図を作成してもらいます。その設計図に基づいて複数の施工業者に相見積もりをとることです。
居抜き物件を利用する
居抜き物件とは、廃業した病院やクリニックで使用していた内装や設備等をそのまま引き継いで利用できる物件です。設備を引き継ぐために費用はかかるようですが、一から内装工事をするよりもはるかに費用を抑えることができるようです。
自由に内装のレイアウトを変えることができないことや、古い物件はすぐに設備が壊れてしまう可能性があるなどのデメリットもあるため、事前に確認しておく必要はありますが、妥協できる範囲内であれば、費用を大幅に抑えることができそうです。
まとめ
病院やクリニックの内装工事に必要なポイントを、デザインと費用面から見ていきました。
内装に関しての基本は、患者さんに安心感を与えること、医師やスタッフにとっては医療行為がスムーズに行えることの2つのポイントに絞られそうです。費用面では価格だけで判断せず、複数の業者に相見積もりを依頼し、信頼できる業者選びがカギとなります。
さらに他のクリニックと差別化できるようなアクセントをつけておくと、患者さんの印象に残りやすくなります。
特殊な設備や機器を設置している特徴上、実際に開業した後では、簡単に改装をすることが難しくなるため、押さえるべき点は入念に確認をしたうえで、内装工事を依頼することが大切と言えそうです。