皮膚科の開業するために知っておくべきこと

将来開業を選択したいけれども…
「開業したら年収があがるのだろうか」
「必要な設備と資金はいくらぐらい必要なのだろうか」
「開業して成功できるのだろう」

数ある診療科のなかから皮膚科を選択しても、開業する前に知っておかなければいけないことや、準備しておかなければならないことがあります。皮膚科の特長とはなにか。開業してどのように事業をすすめていけばよいかについて、ポイントをご紹介します。

皮膚科の特徴

皮膚科の特徴としては以下があります。

10年程前から皮膚科の開業医が増えている

平成16年の新臨床研修医制度の影響もあって、全体的に医師数の減少が問題となりましたが、ここ10年の皮膚科医の増加数をみると、約9割が開業医の増加によるものです。勤務医はわずかしか増えていないようです。

病院(勤務医)と診療所(開業医)の構成比をみると、皮膚科医の総数14,623人の内、診療所(開業医)がしめる割合は、約73%(10,734人)です。

平成24年(2012)医師・歯科医師・薬剤師調査の概況

 

出典:厚生労働省平成24年(2012)医師・歯科医師・薬剤師調査の概況

 

女性の皮膚科医の割合が高い

厚生労働省の調査によると、診療科別医療従事者を男女別の構成割合でみたときに、全体総数を100%とすると、皮膚科の医師数は3%と低くなります。
さらに見ると、男女別の構成比率では、男性2.1%に対して、女性は6.8%となるようです。女性の構成比率は男性の3倍です。
診療所(開業医)の数値は、徐々に増加の傾向をたどっています。

なかでも、女性の皮膚科医が増えているようです。逆に、男性の皮膚科医が減少傾向にあるようですが、これは、世代交代により減少しているとの調査によるものです。

皮膚科の男女構成比

 

出典:厚生労働省平成24年(2012)医師・歯科医師・薬剤師調査の概況

 

医師数の推移を見る限りでは、勤務医と開業医を問わず、女性の皮膚科医が増えていて、4人のうち3人が女性です。

皮膚科の診療範囲

肉眼で見える範囲が皮膚科の診察範囲ですが、その中でも保険診療と自由診療にわかれます。アトピー性皮膚炎の治療や、比較的に女性の悩みに多いニキビの治療に取り組む場合は、必要な治療機器も備えておく必要があります。
患者さん一人ずつ肌の状態が異なりますので、適切な対処が求められます。

皮膚科の保険診療

皮膚科の保険診療としては、以下が挙げられます

シミ・肝斑・そばかす・あざ、毛穴・美肌、にきび・にきび跡、イボ・ほくろの治療、薄毛、やけど・傷跡 など

皮膚科の自由診療

皮膚科の医療診療としては、以下が挙げられます

脱毛、ヒアルロン酸注入、プラセンタ注射、いぼやほくろの除去、美白、しわ・たるみの治療 など

皮膚科は季節によって構成が異なる

皮膚科は、他の診療科と違って、繁忙期と閑散期が季節に左右され、一年を通した売り上げの構成が大きく変動します。
例えば、夏が繁忙期で、虫刺され、あせもなどで患者さんが増加する傾向があります。

また、紫外線を多くあびる季節なので、シミを隠したい女性が多くなる季節でもあり、アトピー性皮膚炎を患っている患者さんがフケかゆみの原因で来院される頻度も多くなります。

よい意味では、新規の患者さんを獲得するチャンスでもありますが、患者さんが多いクリニックでは、待ち時間が多くなって、他のクリニックへ離脱するきっかけになる可能性もあります。

年間の季節指数を事前に把握して、患者さんが気持ちよく来院しやすいクリニック作りを心がけましょう。

皮膚科は設備投資を小さく開業できる

一般的に、医師が開業する場合は、1億円近い開業資金が必要になる場合がありますが、高額な機器をそろえる必要のある自由診療(美容診療など)からのスタートでない場合、設備投資をおさえる方法もあります。クリニックの開業に必要な初期投資ですが、いったい幾ら必要となるでしょう。

一例になりますが、保険診療から小さくスタートする場合は、15~30坪からでも開業ができます。自由診療で特に美容機器は1000万と高額ですが、開業時点では保険診療にとどめて、電子カルテ・顕微鏡・オートクレーブのみで、小規模から開業すれば負担が少なくすみます。

例えば、1坪30万から50万する場所で開業すると、まとまった資金が必要になりますが、借地契約が可能となれば、月契約で数千円から数万円の経費として、まかなうことも可能になります。ただし、駐車場のスペースが必要になりますので、20台くらいは確保しておきたいところです。

土地を借りる場合で注意が必要な点は、親類や友人からの伝手で借りる場合は、しっかりと不動産契約を結ぶようにしましょう。
あとあと、言った言わないと、もめることにも繋がります。条件を維持するのか変更するか対応する場合にも役に立つことになります。

皮膚科の自由診療とは?

自由診療の患者さんが増えている傾向

特に、美容診療で開業する傾向が増えているようです。保険診療は診療単価が安く、たくさんの患者さんを診察する必要があるため、医師の負担が重くのしかかる原因になります。保険診療から得られる報酬は、患者さん一人に対して約3000円です。例えば、内科医と同額の収入を得るために、約2倍の患者さんを診療する必要があります。

皮膚科医の全国平均の収入が6000万円程度と試算したとき、月25日の営業で換算すると、1時間当たり約8名の患者さんを診察することになります。一人の患者さんに対して7分弱の計算です。

そうなると、診療単価が高い自由診療に目が向きやすくなることも理解できます。

皮膚科を開業する当初は、資金の負担が少ない保険診療を選ぶ半面、交換条件で厳しい環境があることも念頭にいれておく必要がありそうです。

保険診療と自由診療でわかれる来院者の層

皮膚科の保険診療では、乳幼児・小学生などの児童・お年寄りまで、幅広い年代の方が来院されます。これは、各年代にそった治療やスキンケアの提案が必要になります。保険診療を受診される患者さんが多くなります。

自由診療では、シミ、そばかす、しわ、たるみなどの美容皮膚科診療や、脱毛症があります。小さなお子さんやお年寄りは少なくなり、20代から30代、年配の女性が多く来院されます。

女性をターゲットにした美容を専門としたクリニックもありますが、都心部では脱毛に特化したクリニックで男性の来院者が増加している傾向もあります。

皮膚科で知られていない保険診療と自由診療の区別

ニキビや、ほくろの皮膚疾患の特長として、自費診療で費用が高いイメージをもたれる傾向があるようです。
もちろん肌の状態によっても異なりますが、保険適用内の基本的な治療を施すことによって、患者さんにも負担が少なく済み、適切なケアを行うことができます。

保険と自由診療が何かを正しく伝えて、信頼してもらい、安心して自由診療を受けてもらえるきっかけ作りができます。無理をせずに治療法を提案できる可能性もでてきます。

高額な設備投資が必要

自由診療は、レーザーなど高額な機器が必要になるので、それにともなって、クリニックの広さも確保しておく必要があります。
保険診療から自由診療へステップアップする場合は、開業する地域の特性と想定する患者さんを良くイメージして計画を練ります。
後で設備を追加しやすく、施設の構造も考えておくとクリニックの拡張に役立ちます。

美容部門はどうすれば良い?

皮膚科を開業にするにあたって美容部門はどのようにすれば良いか見ていきます

一見、稼げそうな美容診療をどこまで手掛けるか

自由診療の中でも、稼げそうだと思われている美容診療にも、様々な領域があります。

主な美容皮膚科診療(一例)

シミ

肝斑

そばかす

赤ら顔

美白

しわ

たるみ

クマ

くすみ

ニキビ

毛穴

肌荒れ

脂漏性角化症

入れ墨除去

医療脱毛

診療報酬の単価が低い保険診療と比べて、美容診療のほうが客単価だけみると、収入を得られやすいイメージがあります。
しかし、稼げるからといって開業当初から沢山の診療項目に取り組むには、喜んでばかりもいられない現実があるようです。

開業での心構えと考え方

開業1年目は、ある程度の心構えと、考え方を身に着けておくことが大切なようです。美容診療には、高額な機器の準備からスタッフの給料の支払いなど支出も高くなります。想像してみるとわかることでもありますが、新規開業した当初は、固定の患者さんが来院する前ですので、売上が安定するまでに時間がかかることを想定しておかなければいけません。

クリニックの経営のかたわらで、宣伝もかねて、メディアや書籍の監修なども手掛ける皮膚科の開業医もいます。開業医といっても、経営者ですので、集客につながるような行動もしておくと、将来の投資ととらえることもできます。

皮膚科の収入と経費はどのくらい?

皮膚科勤務医の年収は、約800万~1000万円に対して、開業医は1200万円~2500万円程です。保険診療、自由診療、診療項目などによって、年収の変動はありますが、2倍近い差があります。
勤務医の中では、ボーナスの支給や、勤務時間が固定されている病院もありますので、どのように働くかによって、将来に開業するかを考えるポイントになりそうです。

■皮膚科医の年収例

皮膚科勤務医 開業医(保険診療) 自由診療

800万~1000万円

約1200万

約2000万

開業医の方が、表面的な数字では収入が上回りますが、勤務医とは違って個人事業主となります。そのため、退職金や所得補償がありませんので注意しておく必要があります。

また、開業医として開始するにあたって、診療所の初期投資が必要となりますので、経営者として、忘れてはならないポイントがあります。初期投資で代表的なものとして、土地・建設費用、内装工事費、医療機器があげられます。
保険診療の場合は、約2000万円。美容診療の場合は7000万円を超える場合があります。

初期投資(保険診療の場合) 

尚、ローン返済の場合は、地方の開業で20万円/月、都心部で80万円/月です。

開業する場所によって、土地・建物などの初期投資が高くなることをおさえておきましょう。美容診療の場合は、高額な設備や機材をそろえる必要がありますので、さらに初期投資額が高くなります。

初期投資(美容の場合) 

次に、毎月のランニングコストがあります。
機材をリース契約にして、毎月の固定費として費用にあてるか。それによっても異なります。

医業費用(月額) ※保険診療の場合

では、収支はどうなるでしょうか。
下記一例として試算すると、開業医としての収入は100万円~200万円程となります。

ただし、保険診療、自由診療(美容診療)のどちらにするか、診療項目や、開業する場所をどうするかによっても、異なります。
まず、クリニックの売上を試算します。※客単価は診療報酬の点数に比例します

患者数1600人/月平均を月25日で一日8時間で営業。一般の保険診療(客単価 約3000円)を得たとして計算します。

1600人×3000円/人=480万円

ただし、毎月1600人の集患人数を、開業時の人員で対応できるかも検討しておく必要があります。

営業時間の計算例

つまり、1人当たり8分以内の診療時間と試算できます。

ここから見えてくることは、保険診療の場合、診療単価が低いため収入を得るには、集患数を稼ぐ必要があります。
開業当初は、リスクを極力おさえるためには、スモールスタートが望ましいです。

ただし、その反面、初期投資や毎月のランニングコストを工面して、ある程度の収入を確保しようとすると、多くの患者さんを受け入れて頑張る必要があります。一人の患者さんに多くの時間を割きずらい一面があるとも言えます。

美容診療は、報酬単価が高いので、収入を得やすく、一人の患者さんにかける時間が多くとれることが言えます。

皮膚科の開業で失敗しないための鉄則

開業開始から黒字化まで経営視点で事業計画を作る

開業後、とりあげられる失敗談の中でも多いいことが、開業開始から黒字化までの計画が作成されていない点です。開業から軌道にのって事業を継続しているクリニックは、早いところで3か月もしくは1年以内に黒字化をしていますが、ただし、これは少ないケースとみておいたほうが良さそうです。

堅実に考えるのであれば、開業当初は、ある程度の支出は初期投資と見込んでおいて、2年目以降から黒字に転換することを想定しておくと、無理のない計画をたてられそうです。開業初年度の売上は低く、経費は高めに見積もっておくことで、手広く行わずに初期投資を抑える発想にもつながります。

初期投資は、ただでさえまとまった資金が必要となります。金融機関からの融資を申請しなければいけませんので、融資申請の際に多額の借り入れを申し込みすると、断られる可能性もでてきてしまいます。

そうではなく、無理のない堅実な事業計画を考えることで、堅実な経営を行うことが評価され、融資を受けやすくなる可能性も高まります。

特色や強みを全面に出してターゲットを絞る

皮膚科開業する際に、気を付けなければいけないポイントととして、患者さんを絞る。ということです。

  • 一見すると、患者さんを絞る=集患が減る
  • という認識をもたれがちですが、その逆です。
    皮膚科の開業当初診は、診療項目を絞ることと、ターゲットとなる患者さんを絞ることが大切です。初めから診療項目を多くしてしまうと、準備する高額な機器が必要で負担も増えます。

    更に、ターゲットを広くしてしまうと、看護師などのスタッフを増員しなければならず、体制を確保することで負担が増えてしまいます。更に言うと、競合と差別化ができず、実績もあって体制も整っている場所に患者さんが流れてしまう理由にもつながります。

    患者さんの立場から見て、「自分はここに通ったほうが安心だ」と、専門性をアピールしたり、他にはないサービスを提供して、一目をおかれることが大切です。

    皮膚科開業のためのコンセプト作り

    開業するためのコンセプトも大切になります。

  • ・何のために皮膚科を開業するのか
  • ・どのようなクリニックでありたいのか
  • ・患者さんのどのような悩みに答えてあげられるのか
  •  

    など、法人企業で言う経営方針をわかりやすい言葉で明確にすることで、対象となる患者さんに、よりメッセージが伝わりやすくなります。

    集患しやすい立地条件と調査

    どこに開業するか、立地条件は非常に重要なことです。都市部や人口密集地域は、人通りも多いので、魅力を感じる場所です。立地条件が良いと、地域の方に認知されやすくなります。

    ただし、その反面、実績があってチェーン展開をしている美容皮膚科なども、多く展開しています。競合となるクリニックも、同じことを考えていると見ておいたほうが無難です。

    立地条件がいいからといって、大きな競争相手と隣接しては企業体力がもたずに、疲弊してしまう可能性もありますので、難しいところです。
    開業する地域に住んでいる方の特性を調査して、目的の患者さんが来院してもらえそうなのか、事前に確認しておく必要があります。

    開業前に他の診療圏のクリニックを見学

    やはり、事前調査が大切だと言えます。
    開業する前に、実際に開業されていて、繁盛しているクリニックをリサーチしておくことで、実際に開業した時のイメージがつきやすくなります。
    異なる商圏で、ご自身が思い描く規模と診療スタイルに似たクリニックが見つけられれば、より参考になりそうです。
    可能であれば、友人・知人もしくは、皮膚科開業専門のコンサルタントの方に、見学させてもらえるように相談することも一つの手です。

    【見ておくべきポイント】

  • ・クリニックの立地、集患しやすい作りになっているか
  • ・院内の掲示物、わかりやすい案内が掲示されているか
  • ・院内の動線(スタッフ、患者との間)。
  • ・処置室の広さは狭くないか、適切な空間か
  • ・利便性は保たれているか
  • ・待合室が狭くないか。
  • ・スタッフの動き。医師とのやりとり
  • 開業当初は、スモールスタート

    稼げるからと、高額な機材を銀行からの融資で全てまかなってしまうと、最初から多くのリスクを負うことになってしまいます。順調に想定通りの集患できれば良いですが、こればかりはやってみないとわからないことも多々あります。開業当初は、リスク負担を押させることが堅実な経営を行うことにつながります。

    開業当初は、費用負担が少ない保険診療から始めて、経営が軌道にのってから自由診療に着手することも一つの手かもしれません。借入を少なくすることで、毎月の返済をおさえられます。

    手元に残っているお金に余裕があれば、万一、資金が足りなくなった場合にも、返済が滞ることなく安心して対応することもできます。
    といっても、なかなかイメージがつかない場合がありますので、皮膚科開業専門のコンサルタントの方に一度ご相談することも、手段の一つかもしれません。

    まとめ

    当然ですが、開業するからには成功することが前提です。
    失敗しないために忘れてはいけないことは、取り返しのつかない大きな失敗をしてしまい、開業から数か月や数年で、とん挫しないようにすることです。

    せっかく開業しても、あれもこれも取り組みすぎて資金が足りなくなって、途中で資金が足りなくならないように注意しましょう。初期投資がかさみ、思わぬアクシデントに対応できなくなっていまいます。

    万が一、それに見合った患者数が見込めず運転資金が枯渇してしまうと、事業継続がままらなくなってしまいます。

    まずは、最低限用意できる資金で開始して、徐々に患者さんに認知されてから、次に発展できるように小さくステップアップしていけるように、将来の目標設定と事業計画を作成しましょう。

  • ・明確な目標設定されているか
  • ・段階的に何をすべきか
  • ・何が足りないのか
  • ・今やることが明確か
  • この当たりの目標設定と見直しができるように整理しておくと、開業までの計画が立てやすくなります。将来、たくさんの患者さんに来院してもらえるようにするために、堅実なクリックの経営を心がけましょう。