電子カルテにはメリットがいっぱい?問題点と合わせて解説

電子カルテは業務の効率を上げる便利なツールとして、新規開設する病院や診療所では導入率が高くなっているものの、これまで紙カルテを使用していた病院や診療所での導入率は、それほど高い伸び率を示しているわけではないようです。そこには紙カルテから電子カルテへの移行にかかる手間やコスト面での問題があるようですが、導入を検討する場合には、何に注意すべきなのか、メリット・デメリットについて検証していきます。
電子カルテとは?
かつてカルテといえば紙ベースが一般的でしたが、近年では電子カルテの普及率は急速に伸び、今では新規に開業するクリニック・病院のほとんどが電子カルテを導入しているといわれています。
「電子カルテ」とは、従来医師が診療の経過を記録していた情報を電子的なシステムで管理できるものです。電子化によりペーパーレス化できるだけでなく、編集や管理、検索が自由に行えることが魅力で、業務の効率化に大きく貢献しています。
カルテとしてだけでなく、受付から会計システムとの連携、検査結果の取り込みなど、業務の横のつながりを拡げる便利な機能を加えることもできます。
とはいえ、医療機関全体からすれば、電子カルテの普及率は伸び悩んでいる現状もあり、メリットばかりが得られるわけではなく、問題点も浮き彫りになっています。
電子カルテ導入のメリットとは
まず、電子カルテを導入するとどういうメリットがあるのかを見ていくことにしましょう。
業務の効率化
最大のメリットは、まず「業務の効率化」が挙げられます。具体的には次のような業務で効率化が図れ、かなりの時間短縮が期待できます。
- 予約・受付業務
- カルテの記録
- 処方、注射のオーダー
- 会計
- 文書作成、診断書作成
業務の効率化でコスト削減にもなり、結果的に業績アップにつながりそうです。
検査結果をデータで送れる
院内の医療機器との連携で、検査依頼やデータのやり取りができるようになります。
また外部の検査会社などへの検査依頼時には、電子カルテからそのまま依頼をすることができ、検査結果の確認や取り込みが必要なときに電子カルテの画面上から自由に行えます。
保管場所が必要なくなる
電子カルテはサーバーに蓄積されていくため、紙カルテのように保管場所に悩まされることもなくなります。さらに、必要なときに簡単に取り出すこともできます。
紙カルテを残しておきたい場合には、電子化して保存しておく方法もあり、これだけでも保管スペースを大幅に減らすことができそうです。
カルテを探す手間がなくなる
紙カルテがきちんと整理して管理されていても、大量にあるカルテの中から探すには時間も手間もかかってしまいますが、電子カルテではタイムリーに取り出すことが可能になります。
さらに情報を一元化してまとめることもできるため、患者さんのデータを検査結果などと紐づけるなど、情報を管理しやすく、作業の手間を大幅に削減することができるようになります。
事務作業のミスが減る
事務作業にもさまざまありますが、具体的には次のようなことが挙げられます。
- 手書きの字の判読ミスを防ぐことができ、的確に業務を進めることができるようになります。その結果、会計やレセプトの操作・チェックにおいてもミスを防ぐことができます。
- テンプレートを利用することで、記入漏れを防ぎ、スピードアップにもつながります。
- 病院内だけでなく、他の医療機関とネットワークでつながっていれば、電子カルテの共有ができ、薬の処方ミスや検査内容の重複を防ぐことができます。
- 処方内容について、重複投与などがないかリアルタイムでチェックができ、人的ミスが防げます。
- 紙カルテ利用時に口頭で伝達していたことも、電子カルテ上に集約することで、指示や伝達事項も正確に伝わり、ミス防止につながります。
患者への説明がしやすくなる
電子カルテには、処方データから検査データまで蓄積されているため、患者さんに口頭で説明するよりも、検査データをモニターに表示することで、わかりやすく患者さんに伝えることができるようになります。
患者さんも病気に対しての理解が深まり、場合によっては希望する患者さんにデータを印刷して渡すことも可能です。
医師が変わっても診察内容が正しく引き継がれる
たとえ担当の医師が変わったとしても、紙カルテでは不十分になりがちな内容が、電子カルテに入力することで、分かりやすく適切に診察の内容を引き継ぐことができます。
患者さんにとっても症状を繰り返し説明することもなく、安心して診察を受けることができます。
安全にデータの保管ができる
クラウド型の電子カルテシステムを利用すれば、パソコンの故障や災害時でも、消失することなくデータは安全にクラウドで保管されます。個人情報保護の観点からも、紙カルテよりも安心です。
電子カルテの問題点は?
便利な機能満載の電子カルテですが、問題点もいくつかあるようです。
システムに慣れる時間が必要
さまざまな電子カルテが開発されている中、操作の仕方もメーカーにより異なっており、簡単な操作だとしても慣れるまでには多少の時間がかかります。そもそも電子機器操作に苦手意識があれば、やはり紙カルテのほうがいいという人がいるかもしれません。
システムを導入したからといってすぐに使えるようになるわけではなく、ある程度の情報を事前に登録する必要があります。さらに電子カルテと医事会計システムが別になっている場合、スタッフはそれぞれの操作方法を覚える必要があり、本来の業務とは別に負担がかかります。
また新しいスタッフが増える度に操作方法を覚えてもらう必要性もあり、導入時や新規スタッフ採用時のこうした負担が電子カルテ導入に歯止めがかかる一因のようです。
テンプレートを作らないと使いづらい
電子カルテには、複数の医師やスタッフが入力するため、記載内容にもバラつきが出ることがあります。情報共有のためには、テンプレートを利用して、ある程度統一感のあるものにすることで、利用する医師やスタッフもわかりやすくなります。
導入時にはあらゆる角度から検証し、使いやすくするための作業も発生してしまうようです。
停電すると使えなくなる
電子機器であるため、停電やシステムトラブルになると使えなくなるという問題点もあります。
そもそも停電時には電子カルテだけでなく、医療機器すべてが使用できなくなるため、通常どおりの診療を行うこと自体が難しい状況ですが、システムトラブルであれば、一時的に紙カルテを使用することを想定しておいたほうがよいようです。
万一の場合に備え、発電機を準備しておくことも必要かもしれません。
導入にコストがかかる
電子カルテの導入時だけでなく、月々のランニングコストも考慮しておかなければなりません。予約・受付から会計、処方までの一元管理や、他のシステムと連携させる場合には、便利になる分だけコストもかかることになります。
費用対効果を期待できるのであれば、導入するメリットもありそうですが、病院の規模に見合った導入方法を検討する必要があります。
セキュリティ対策が必要
個人情報を扱うため、万全なセキュリティ対策は必須といえます。ウイルスによる攻撃や情報漏洩など、ネットワーク上の問題も出てきます。また病院内でデータを取扱う人すべてに、情報セキュリティ教育をする必要もあります。
クラウド型の電子カルテであれば、データは病院内に蓄積されないため、セキュリティ面で安全といわれています。クラウド型であればパソコンだけでなく、タブレットやスマートフォンで場所を問わず使用できるのも魅力となっていますが、そもそもインターネット環境が整っていなければ使用できないという問題点もあります。
電子カルテの種類
電子カルテは病院向けと診療所(クリニック)向けに大きく分かれています。それぞれ入院機能や部門機能の有無、会計システムに違いがあるため、導入フローも異なっています。
サーバーには、院内サーバー型(オンプレミス型)とクラウド型があります。以前は個人情報保護法から院外のサーバーにデータを送ることに規制があったようですが、現在ではクラウド化が進み、普及率も伸びてきているようです。
ここでは、病院向けと診療所向けの電子カルテについて、さらにクラウド型の電子カルテについて解説していきます。
病院向けの電子カルテ
病院向けと診療所向けの電子カルテは基本的な機能は同じですが、規模の大きい病院では入院設備や各種検査設備が整っていることなどから、必要な機能も多くなってきます。
病院の規模が大きくなるほど、各部署間での情報の共有がスムーズに流れることが重要となってきます。そのために効率的な役割を果たすような電子カルテのシステム導入を目指すことが大切です。
導入までにもそれなりの準備が必要となるため、ある程度の時間もコストもかかりますが、すべてを電子化することが、必ずしも業務の効率化に結びつくわけでもないようです。どの流れをスムーズにすれば効率化を図ることができるのかということを、導入前によく検証しておくことが必要になってきます。
さらに医師・スタッフの人員が多ければ、電子カルテシステムに慣れるための時間も必要です。不要な機能は省略することでコストを抑え、かつ効率的な業務に結びつけることが重要といえそうです。
診療所向けの電子カルテ
診療所・クリニックにおける電子カルテの導入は徐々に増加しているものの、大規模な病院と比較すると普及率は低く、診療所全体の3~4割程度という現状です。
新規開業のクリニックでは比較的導入は進んでいますが、以前から紙カルテを利用している場合は、切り替えのタイミングやコストを考えると、なかなか導入に踏み切れないようです。
診療所・クリニック向けの電子カルテは、大規模な病院と比較して必要な機能は少なく済みます。また電子機器の操作に苦手意識があったとしても、タッチペンを使用すれば紙カルテ感覚で簡単に操作できるタイプのものも多く開発されています。
コスト面でのリスクを負っても、スタッフの人員不足で業務の効率を上げたい場合には、導入を検討してみるのもよいかもしれません。
クラウド型の電子カルテ
クラウド型は、電子カルテの情報を病院内のサーバーやパソコン内に保存するのではなく、すべてクラウド上で管理する電子カルテシステムです。
以前は情報漏洩を避けるためにデータは病院内で管理されていたようですが、現在では安全なセキュリティ対策のもと、インターネット上に保存し、そこにアクセスするという形態が主流になりつつあります。
これにより、多くのメリットもありますが、デメリットもあるようです。
【メリット】
- 病院内に専用のサーバーを設置する必要がなく、そのための場所も必要がない。
- インターネット経由なので、外出先など、場所を選ばずどこからでもカルテの閲覧や書き込みが可能になる。
- パソコンだけでなく、タブレットやスマートフォンでも利用できる。
- カルテのバージョンアップが自動で行われる。
【デメリット】
- インターネットの接続が必須条件のため、インターネットに障害がでると利用ができなくなる。
- 病院内でサーバーを設置するオンプレミス型と比較して、費用が高額になる。
インターネットにアクセスして操作を行う分、若干のタイムラグが発生する。
電子カルテの普及率は?
現在、新規開業の病院、診療所のほとんどが、開業と同時に電子カルテを導入しているといわれていますが、病院、診療所全体での普及率はどうなのでしょうか。
厚生労働省による2017年度の調査結果では、次のようになっています。
【2017年】
- 一般病院 7% 〔400床以上:85.4%、200~399床:64.9%、200床未満:37.0%〕
- 一般診療所 6%
一般病院のほうが多少普及率は高いものの、診療所との差はそれほど大きくないといえます。
ただし一般病院の内訳をみると、400床以上の大病院では85.4%もの普及率ですが、200床未満の小規模病院においては37.0%とそれほど普及しているわけではありません。
この理由には、コスト面が大きくかかわっていると考えられます。導入時にかかる費用やランニングコスト、データの移行作業を考えると、規模の小さい病院では、それほどのメリットは得られないのかもしれません。
ちなみにほぼ10年前の結果は次のようになっています。
【2008年】
- 一般病院 2% 〔400床以上:38.8%、200~399床:22.7%、200床未満:8.9%〕
- 一般診療所 7%
一般病院、診療所ともにこの10年間で電子カルテの普及率は着実に伸びているのがわかります。
電子カルテを導入する際のポイント
電子カルテを導入するにあたり、どのような点に注意すればよいのか、いくつかのポイントについて説明していきます。
他のシステムと連携できるかを考慮する
大規模な病院になればなるほど、予約・受付から診察、会計まで一連の流れはもちろんのこと、医用画像管理システム、外注検査のオーダーまで幅広くオンラインで連携することで、業務の流れをスムーズに行うことが可能になります。
電子カルテを導入時には、レセプトコンピュータ(レセコン)一体型を選ぶか、医事システムがある場合は連携できるかどうかを確認したうえで、決定する必要があります。
操作性が楽なものを選ぶ
電子カルテは使いこなせて初めて便利なツールといえます。電子カルテ導入は、医師だけでなく、スタッフ全員が使いこなせていなければ役に立たず、そのために研修も必要になる場合もあります。
特に診察時には、患者さんと向き合いながら電子カルテを操作することになるため、キーボード入力だけでなく、クリックやタッチペンでの単純な操作を多く取り入れ、効率よくスピーディーに入力できることが重要なポイントとなります。
導入する目的に沿った電子カルテを選ぶ
便利な機能がたくさんあり、つい不要なものまで付けておきたくなりますが、導入する目的を明確にし、本当に必要な機能かどうかをよく考えて導入することも大切です。効率化が期待できない機能は無駄に費用が発生することになってしまいます。
導入には初期費用だけでなく、ランニングコストもかかります。さらにシステムの変更やバージョンアップがあったときは、それらの機能すべてに費用がかかり、結局無駄な費用が発生することにもなりかねません。
病院の規模や経営状況に応じて、まずは必要最小限の機能から導入し、必要に応じて増やしていくのもよいかもしれません。
まとめ
電子カルテはうまく活用することで、業務の効率化、さらには業績向上に結びつけることができる便利なツールで、メリットばかりに目が向いてしまいがちです。しかしながら、その反面、問題点もあるということを把握したうえで、検討する必要があります。
無駄のない電子カルテを選ぶためにも、導入前にどんな機能やシステムが必要か、医師・スタッフが操作するうえで、数ある電子カルテの中から簡単でスピーディーに操作できるものはどれかを比較しながら確認しておくことも大切です。
今後の医療現場を考えたときに、医師やスタッフの業務の負担を軽減するためにも電子カルテシステムはますます欠かせないものとなることが予測されます。導入時には電子カルテのよい面ばかりでなく、問題点にも目を向けて検討することをおすすめします。