新型コロナで危惧されている医療崩壊とは?

新型コロナウイルス感染拡大に伴い、医療崩壊が近いとか既に始まっているとも言われています。しかしながらその言葉には、医療従事者と患者との双方の側面から見えてくる様々な最悪なシナリオの可能性を含んだ意味が含まれており、従来の医療崩壊と言われたものとは別の状況が想定されているようです。新型コロナウイルス感染拡大から見えてくる医療崩壊とはどのような状況で、その可能性にどこまで近づいているのでしょうか。
本来の意味での医療崩壊とは
新型コロナウイルスの感染拡大とともに、『医療崩壊』が危惧されている昨今ですが、そもそも医療崩壊とはどういう状況を指しているのでしょうか。
従来、『医療崩壊』とは、「医療費抑制などの社会的背景に起因する病院経営の悪化などにより、医療提供体制が崩れ、継続できなくなる状態」という意味で使用されていました。
新型コロナウイルスで頻繁に耳にするようになった『医療崩壊』も、医療提供が継続できなくなるという状況に至ることを意味しているようですが、その過程には複雑で多角的な側面を含んでいるように思われます。
例えば、受診する患者側から見た場合、受診したくても受け入れてもらえる病院がない、あるいは検査の結果、治療が必要と診断されても、空きベッドがないため自宅療法を余儀なくされ、その間に重症化して手遅れになってしまうような状態のことが医療崩壊と言われています。
一方、医療従事者にとっては、人員、設備・医療器具、または患者さんを受入れるベッドの不足など、十分な医療行為を提供することができない状態を指しているようです。
受診を希望しているのに受け入れてもらえない、これは医療崩壊?
新型コロナウイルスに感染しているかどうかを検査する方法として、現在のところ『PCR検査』が一般的な検査方法となっています。
しかしながら、自分で疑わしい症状が出たとしても、すべての人が検査を受けられるわけではなく、まず保健所等の指示を仰ぎ、37.5度以上の発熱や特徴的な症状が見られる人のみ検査できるという流れになっています。
感染者数が増加するにつれ、発熱以外に味覚や嗅覚障害といった感染者の具体的な症状も次第に明らかになってきましたが、症状の出方は人それぞれで、自分では判断しづらいのが大きな特徴です。中には無症状感染者がいるということが、多くの人の不安を煽り、検査を希望する人で保健所の電話はパンク状態とも言われています。
あまりにも限定的な検査対応が、感染拡大に拍車をかけ、医療現場や世の中を混乱させているのは事実ですが、その一方で、このような体制をとらざるを得ないのは、受入れができる病院等の医療施設、医療従事者があまりにも不足しているという現実があるということです。
ウイルス感染の可能性がある人が救急車で運ばれた場合、受入れ先の病院が見つからず、たらい回しにされるということも頻繁に起こっています。
このような状況が、既に医療現場の限界を意味するのであれば、救える命が救えなくなっている状況であることから、『医療崩壊』と呼べるのかもしれません。
緊急事態宣言と医療崩壊が結びつく理由
緊急事態宣言による外出自粛要請により、私たちは不要不急の外出を控えることを余儀なくされ、日常生活は一変しました。
政府の目的は、人との接触を8割減らすことで、感染拡大を食い止め、それにより医療関係者への負担を軽減することで医療崩壊を避けることにあります。
当初は感染者が大幅に増加した7都道府県が対象でしたが、ゴールデンウィークの人の流れが地方に及ぶことが懸念され、2020年4月20日に全国が対象となりました。
ゴールデンウィークの最終日となる5月6日までが実施の対象期間とされており、これはデータに基づいて設定された期間ではあるものの、その期間中に人との接触を8割減らずというのは、実際にはハードルの高い設定とも言われています。
現状では、全国でばらつきがあるものの、まだ8割減には手が届きそうにない結果となっています。その理由の一つに、緊急事態宣言に備える個人の意識の違いが指摘されています。
個人の意識にばらつきが生じる原因として
などが考えられます。
一人一人が感染リスクを避ける行動を徹底することで、初めて感染者数を減少させることができ、『緊急事態宣言』が意味のあるものになってきます。もしこの期間の最終日に感染者数を抑えることができていなければ、さらに延長することを余儀なくされ、制限された生活はしばらく続くことにもなります。
確かに外出自粛で社会人は在宅勤務、学生は休校のため自宅で過ごす時間は長くなっているようですが、その一方で、在宅勤務が難しい人は通勤せざるを得ない状況が続いていたり、生活必需品を求める人でスーパーは「密集」状態だという事実もあります。
個人が強い意識を持って真剣に取り組まなければ、感染者数を減らすとことは難しいと言われている中、本来の目的である医療崩壊を避けるためにも、自分自身で責任を持った行動をすることが何よりも大切と言えそうです。
4/27時点でのコロナ感染者数と死者数
2020年3月から4月27日時点での日本における感染者数と死者数は次のとおりとなっています。
(人数にはクルーズ船の感染者も含んでいます。)
3月1日時点での感染者数256人から、3月末で一気に急増し、4月16日時点では13,441人に達しており、その後も増加し続けています。
死者数も4月13日には累計100人を超え、4月27日時点では372人に達しています。
新型コロナ、医療崩壊させないために必要なこと
国内で緊急事態宣言が発せられた直後から加速度的に感染数が増加している中、病院や介護施設では院内感染、病院クラスター発生に歯止めがかからず、医療崩壊は時間の問題とか既に始まっているという見方もあるようです。
オーバーシュートが懸念されながらも医療体制がかろうじて持ちこたえている現状の中で、医療体制が崩れてしまう前に、どのような対策をすればよいのでしょうか。
医療体制の強化
日本においては、人口に対する集中治療室(ICU)や体外式膜型人工肺(ECMO)装置といった、新型コロナウイルスの治療に必要な設備やベッド数が外国と比較して圧倒的に少なく、また感染症専門の医療スタッフも不足しているのが現状です。
さらに、設備や機器を適切に管理できる医療スタッフの人員は絞られ、集中治療室で看護する場合は、通常、患者2人に対し1人の医療スタッフですが、新型コロナウイルスの場合は、1名の患者に対し2名の医療スタッフが必要となり、まさに治療の限界といってもよい状況まできています。
医療体制または集中治療体制を強化していくことは、早急な対策が必要となりますが、時間に猶予のない現時点では、設備不足と専門スタッフの労力を考慮し、重症患者のみに集中した治療を医療施設で行う方法が取られ始めました。
現状、コロナ以外の疾患で入院や手術を待っている人たちに医療の手が回らず、後回しにされつつある実態も明らかになってきています。このような患者さんが優先的に治療を受けられるよう、ベッドや医療スタッフを確保するためには、医療施設では、新型コロナウイルス感染者の重症者のみに限定し、医療施設で受け入れるというのが、現状できる最善の対策となったようです。
終息まで長期化することが予測されている中、薬の開発を含め、早急に医療施設・設備の増加と専門医療従事者を増員し、医療体制を強化することは最優先課題と言えるようです。
検査の拡大
現在『PCR検査』が新型コロナウイルスの一般的な検査方法となっていますが、検査に携わる医療関係者の不足などで検査数には限度があると言われています。自分でできる検査キットも開発されつつありますが、精度において不十分ということで、未だ一般化には至っていません。
その一方で、海外でも実施されていたドライブスルー検査が、日本の一部の自治体で実施されるようになってきました。この方法であれば簡単に検査数を増やすことができ、医療関係者の負担も軽減できることが期待できそうです。
ウイルス感染者が他人に感染させてしまうリスクが一番高いのが、感染直後の症状が現れる前だと言われています。つまり自分では気付かないうちに周囲の人にうつしてしまうということです。
検査を受けていない潜在的な感染者も多数いることから、単に現在感染しているかどうか、または過去感染して抗体ができているかどうかを知りたい人まで検査を行えるような体制を整えることは、医療崩壊を防ぐためにも早急な対応が必要といえそうです。
重症患者と軽症者を区別
国内における新型コロナウイルス感染者数がそれほど多くなかった当初は、重症患者も軽症者も措置入院の対象とされていましたが、感染者数増加に伴い、重症患者を受け入れることが難しくなってきました。
医療関係者の対応も難しい状況となりつつある今、重症患者へのベッド数確保と医療関係者への肉体的な負担と感染の可能性を軽減するための対策として、重症患者と軽症者を区別する対応が取られ始めています。
そのために軽症者や無症状の感染者を、ホテルなどの収容場所に移す体制が整いつつありますが、実際には収容場所はまだまだ不足しているのが現状です。
医療崩壊を招かないためには、社会全体が協力しなければいけない時期に入っているようです。
院内感染対策
ようやく、ウイルス感染者の軽症者を収容できる施設として、ホテル等の利用が可能となってきた段階ですが、病院では院内感染、病院クラスターを呼ばれる集団感染が連日のように発生しています。
院内感染が発生した場合、病院側は新たな外来や入院患者の受け入れ停止など、診療体制の縮小をせざるを得ない状況に追い込まれるどころか、病院として機能できなくなる状況にまで追い込まれてしまいます。そのことで、新型コロナウイルスの患者を診る医療機関が少なくなってきて、医療崩壊を導くことにもなってきます。
医療現場で感染が拡がる原因として、マスク・防護服などの含む感染防護具が不足していることも挙げられています。
医療従事者は常に感染の危険性と隣り合わせの状況の中にいます。政府はようやくこのような状況に感染防護具などの支援を始めましたが、現場で対応する医療従事者は、減少する気配のない患者の対応に既に疲弊の限界を迎えているのが現状のようです。
自分の行動に責任を持つ
医療崩壊を招かないためには、何よりも先に感染患者をこれ以上増やさないこと、感染者数を減少させることが必要だといわれています。
不要不急の外出自粛により人との接触を8割減らすことで、感染拡大を防ぐという目的で発令された非常事態宣言ですが、結果として医療崩壊を防ぐことにも繋がっています。
ところが、密閉、密集、密接という『三密』を避け、人との距離をとる『ソーシャルディスタンス』という意識は浸透してきたものの、実際には、自宅勤務が困難でやむを得ず出勤する人や、休業要請を受けていないスーパーやドラッグストアには、買い物客で密集しているなど、徹底的な対策とは言い難い状況であるのが現状のようです。
中には、ルールを守らないなどの甘い認識の人も少なからずいることから、現時点では緊急事態宣言が解かれる5月6日までに感染数を抑えることは難しいという専門家の意見もあるようです。人によって認識の違いが発生するのは、新型コロナに関する怖さについて、あるいは医療体制が医療崩壊の瀬戸際であるという具体的な事実を知らないという見方もあります。
外出自粛や在宅勤務、学校の休校で自宅にいる時間が長くなると、普段は味わうことのないストレスもあるかもしれません。ただ今一度、何のための緊急事態宣言なのかを再確認するために、情報に耳を傾け、ウイルスの感染力の恐ろしさや医療現場の大変さを多くの人が知ることが必要です。
自分は大丈夫という意識を捨て、緊急事態宣言が無駄なものとならないよう、すべての人が責任を持って行動することが、医療崩壊を防ぐ唯一の道だといえるかもしれません。
まとめ
過去にSARS・MERSなどの感染症で多く犠牲者を出した国では、二度と同じような事態を引き起こさないよう、国レベルで綿密な対応策を整えて非常事態に備えていたと言われています。その結果、国民に対して迅速な徹底した指示と管理をすることで、新型コロナウイルスの感染拡大を早い段階で減少させることに成功しています。
人との接触を避けることが、唯一の感染拡大を抑えられる方法と言われているように、徹底的な外出自粛で感染リスクを抑えることができるのです。医療崩壊がどのような事態を招くのか、事の重大さを認識し、ひとりひとりが自分の行動に責任をもって、新型コロナウイルスと向き合っていくことが大切です。