クリニック閉鎖に必要な手続きとは?

今回はクリニックの閉鎖に伴う手続きについて説明します。クリニック閉鎖業務に関しては、現在、サポートが少ないのが現状です。本記事を参考に、必要な手続きや準備期間、資料の保存などを具体的に例示して参考にしていただければと思います。また、これからクリニック開業を考えている経営者の方にも、閉院や譲渡の方法を知っていただくことで、経営の全体像を把握してもらいたいと思います。
クリニック閉鎖にあたっての必要な手続きや書類
はじめに
クリニック開業から粉骨砕身、患者やスタッフのサポートを含め、努力を重ねてきたにもかかわらず、様々な理由で閉鎖せざるを得ないクリニックは年間6,000件以上に上ります。
以下、クリニックを閉鎖するにあたって、関係各所への手続きや提出書類をまとめています。紹介している届出書はあくまでも一例であり、クリニックの大小、状況により提出する書類が増減します。
クリニック同士のつながりがあり、閉鎖業務の内容に長けている人がいれば、相談するのも手です。相談できない場合には、クリニック・病院の整理を担当する専門企業への相談を検討するのが、一番手間がかからずに済みます。以下、紹介する提出書類を含む閉鎖業務のサポートをはじめ、クリニックの売却に至るまでアドバイスしてくれる可能性もあります。
診療所廃止届の提出
クリニックを廃止する際には、その日から10日以内に「診療所廃止届」を提出する必要があります。提出場所は、クリニックを管轄する保健所です。
エックス線装置廃止届の提出
クリニックを廃止する際には、その日から10日以内に「エックス線装置廃止届」を提出する必要があります。提出場所は、クリニックを管轄する保健所です。
保険医療機関廃止届の提出
クリニックを廃止する際には、「保険医療機関廃止届」を提出する必要があります。提出場所は、クリニックを管轄する厚生局です。
麻薬廃止届の提出
クリニックを廃止する際には、その日から15日以内に「麻薬廃止届」を提出する必要があります。提出場所は、クリニックを管轄する都道府県庁です。
事案 | 申請・届出の種類 | 提出期限 | 届出先 | 備考 |
クリニックを休止または廃止した場合 | 診療所廃(休)止届 | 廃止後 10日以内 |
保健所 | 名称は自治体によって異なる |
診療用エックス線装置を廃止した場合 | 診察用エックス線装置等廃止届 | 廃止後 10日以内 |
保健所 | 名称は自治体によって異なる |
診療所を閉鎖する場合 | 保険医療機関廃止届 | 厚生局 | 各地方の厚生局に問い合わせる必要あり | |
麻薬を取り扱わなくなった場合 | 麻薬廃止届 | 廃止後 15日以内 |
都道府県庁 |
クリニック閉鎖にあたって検討が必要なこと
閉鎖する時期・地域住民へのお知らせ
閉鎖時期の検討は、最も大切です。地域住民だけでなく、所属するスタッフの人生もあります。順番としては、スタッフへの告知、患者へのお知らせ、とするのが良いでしょう。
地域住民に対しては、クリニック内に大きく告知をする必要があります。また、HPへの情報更新、情報弱者が多い高齢者へのハガキ等の郵送を検討しましょう。クリニック閉鎖までの期間、転院の手続きが発生することを念頭に置きましょう。閉鎖直前まで通院して頂ける患者は半数と認識しておくと、閉鎖までの期間に焦ることなく対応することができます。
カルテ等の資料保存
クリニックや医療機関は、カルテやX線フィルムの資料保存期間が定められています。クリニック閉鎖後も、X線フィルムは3年(医療法施行規則第30条)、カルテ保存期間は5年(医師法第24条)の期間、資料を保存する必要があります。 閉鎖後の資料保管場所についても、同様に考える必要があります。
患者の受け渡し
近隣地域へのクリニック・病院へ患者の受け渡し手続きをする必要があります。患者の病状によっては、地域以外のクリニックを検討する必要があるでしょう。
具体的には、患者の希望する医療機関への紹介状を書き、手続きを取ります。「患者ファースト」を心がけ、他の医療機関への移行の際に、トラブルが起きないように細心の注意をする必要があります。クリニック閉鎖業務を専門業者に任せる場合、患者の受け渡し業務がなくなるケースもあります。
医師・看護師・スタッフの対応
医師・看護師及びスタッフへの告知を一番先にしましょう、スタッフへの様々な手続き、一人一人へのアフターケアを含めて、半年以上前に行うのが理想的です。
院長の意思決定後、院内での代表者と話し合い、全スタッフへ告知する流れが良いでしょう。スタッフへの告知後、速やかに患者へ伝達できるように準備を始めましょう。
さらに、スタッフに対して再就職先の斡旋ができれば、スタッフとのトラブルを防ぐことができ、閉鎖までの良好な関係を保つことができます。
テナント及び医療機器の売却
クリニック閉鎖後のテナントを売却するには、開業当初にお世話になった不動産屋に相談する他、専門の企業に依頼するといいでしょう。売却以外には、テナントを貸し出す方法があります。
また、クリニック内にある医療機器の売却も同時に進めましょう。医療機器類は高額な物が多いため、中古買取業者への売却を検討する必要があります(リース・レンタル利用除く)。
承継・譲渡の場合はどうすれば良い?
相続税の考え方
医療法人を他人に譲渡する場合に、出資持分に関する考え方を整理しましょう。
まず、医療法人は「出資持分なし」「出資持分あり」「財団」に分けることができます。この中で、「出資持分ありの社団医療法人」の場合、相続税や贈与税など、通常の株式会社同様に処理されます。
出資持分ありの場合
ここでは、全国的に見ても割合が高い(医療法人中、約8割に該当)、「出資持分ありの社団医療法人」の譲渡の場合を簡単に説明します。
出資持分ありの場合、評価が必要になります。出資持分とは簡単に考えれば、設立時の出資者の財産権のことです。評価額が高くなればなるほど、相続税が高くなる傾向にあります。こういった場合、譲渡前に評価額を下げるのが通例です。
具体的には、人件費調整や設備投資等を行うことで、医療法人の評価を一時的に下げます。
クリニックを閉鎖するベストな時期とは?
1年前に準備を始めよう
クリニックを閉鎖する場合、関係各所への連絡、書類の整備、地域患者へのお知らせやスタッフのケア等、やらなければいけないことが多くあることは解説しました。
ベストな時期は「1年前」です。特に事業の継続性が危ぶまれる場合は、危機意識をもって準備にあたる必要があるでしょう。クリニック経営が傾いたまま継続することになると、クリニック自体の売却を考えたときに、評価がつかないケースもあります。事業の譲渡も選択肢にあることを考え、健全なクリニック経営をして下さい。」
まとめ
クリニック経営は、会社経営と同じく山あり谷ありで予想外の連続です。本記事はクリニック経営を始める経営者に読んで頂き、経営の健全化と万一に備えての対策を知り、クリニック開業に生かしてほしいと思います。